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ゆーすけべー日記

はてなBlogってどーなの!?

ワンダーフォン #02

ワンダーフォン

たしかに下心はあった。

僕が2008年の元旦の朝4時に手に入れた不思議な電話——ワンダーフォンに着信を入れた女性「サリー」は言った。これはあなたの望みを叶える電話です、と。彼女の導かれて辿り着いたソープランド「ヤングガール」の源氏名「リサ」、つまり僕の幼馴染であるアヤコと大晦日ぶりにそういう場所で——僕は彼女が風俗で働いていることを当然知らなかった——出会うことは望みを叶える電話の機能として合点のいくことだった。

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「60分コースね?この店初めて?」
と切り出し、アヤコははしごのように急な階段を僕の手を取りながら部屋へ導いた。室内は薄暗く、赤茶けていて、銀色と思われるマットが膨らまされて立てかけれ、シャワールームとバスタブ、それにシングルサイズのベッドが置いてあった。

「よく私がここで働いてることが分かったわね?」と僕のダウンジャケットを受け取りながら彼女が訊いた。僕はワンダーフォンのこと、サリーのことを思わず隠した。
「たまたまだよ。姫始めってやつさ」
「そのわりには、指名したじゃないの。まぁネットに写メ日記載せてるからね」
アヤコはさほど気にしない風であった。さて、問題はソープランドにアヤコの客として僕がいることだった。アヤコは中学校の同級生で、彼女は学年でもヒロイン的存在だった。僕らグループとつるむことがあったが、僕自身は当時さほどお喋りをする仲ではなかった。昨日の大晦日——やっと思い出したのだけれど——地元藤沢のファミレスで仲間達が集っていると聞き、プジョーに乗って彼らのところに駆けつけた。すると、その中にアヤコがいた。27歳になっていた彼女は肌の艶こそ衰えたものの、まだ輝きを放っていた。中学の時に引っ込み思案だった僕は、好きな娘はいるのか?と尋ねられると、人気だからという理由を付けて、アヤコの名前を挙げていた。口にするとそれが本気に思えてきてしまう。それもあってか、久しぶりに会う独身のアヤコを見ると懐かしさと同時に、(簡単にいってしまうならば)下心のようなものを抱いていた。望みを叶える電話か。サリーのやつめ。そうこう考えているとアヤコが訊いた。
「ベッドにする?マットにする?私、マットそれほど得意じゃないのだけれど」

結局、僕はアヤコとやった。驚くほどすぐにたくさん出た。でも、期待した以上に興奮はしなかった。ことの最中、何故か、サリーの音声読み上げのような声が頭の遠くで響いている気がして、集中出来なかったせいもあるかもしれない。不思議な電話の効力に驚いていたからかもしれない。女なんてみんな一緒だ、と僕は射精してから自分を説得した。

靴下を履いているとアヤコが言った。
「私ね、来月で足を洗うことにしたの」
「この店辞めるってことか?」
「ううん。風俗辞めるの」
「ふーん。新しい仕事に付くのか?」
「そう、地元で保険を売るの」
「まぁ、この仕事大変だろうからな」
「そういう理由じゃないんだけどもね……」
その時、部屋に備え付けのインターフォンのベルが鳴った。「はい、お客様、お帰りです」と彼女が答えた。

急な階段を今度は僕が手を取って、降った。微かな声でアヤコが囁くものだから、僕は後ろを振り向きそうになったが、転げ落ちそうになったので、耳だけ近づけて聞いた。
「あなたに会えて、嬉しかったのよ。昨日も今日も。あれは中学の頃だっけ。放課後あなたがセブンイレブンの前で、小枝のチョコレートを半分私にくれたの今でも憶えているのよ。あの時楽しかったわね」
階段が終わりに近づいてきた。僕は立ち止まると、彼女が僕の背中に胸を押し付ける格好になった。そのまま耳元に口を近づけると、彼女は言った。
「ねぇ、サリーに頼めば、また私と遊べるわ。じゃあね、タカシ。待ってるわ」
「お客様、お疲れ様でした!」という勢いの良い声と共に、チョッキの男が顔を出し、オシボリを差し出してきたので、僕は振り向く間もなく、それを受け取った。

アヤコがサリーのことを知っていた。あるいは、追加するならば、ワンダーフォンのことも存じているかもしれない。その時の僕にはひたすら不思議な現象にしか思えなかった。