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ゆーすけべー日記

はてなBlogってどーなの!?

ワンダーフォン #05

2月に入った。自宅にこもっての仕事に飽き飽きしてきた僕は、昼飯をとって(大抵がペペロンチーノをベースとしたスパゲッティーだった)、シエスタを済ませるとMacBookを背中に背負い横浜の街へ出た。ベローチェ、上島珈琲など煙草が吸える喫茶店に入り、必ずアイスコーヒーの一番大きなサイズを注文して、仕事の続きをした。大抵の作業は今までやったことのあるようなことの繰り返しで、ホームページの<お問い合わせフォーム>をなんべんも作っているような感覚だった。中身は一緒、外面(見た目や文言)は別。ありもののテクニックをクライアントに合わせて変えるだけの作業だ。夕食が恋しくなると、喫茶店を出て、だいたいラーメンかB級グルメを食べた。横浜駅周辺というのはそういった飲食店で溢れていたのだ。例えば、相鉄口から岡野の交差点へ向かう大通りに面したシェーキーズの前ではピザとパスタの食べ放題を狙って、毎日、中高生が大行列している。僕は食べ放題のピザよりか、もう少し品のあるB級グルメを食べた。すた丼のチャーハンとかだ。

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通りから外れたオフィスビルの1階に、コメダ珈琲を見つけた。名古屋が誇る名古屋的喫茶店の一大チェーン店である。僕はそこの、甘みが最初からデフォルトで付いているアイスコーヒーが気に入ってしまい、通うことにした。アイスコーヒーにシロップを入れるとうまいという発想がそもそもなかったので驚いた。煙草も吸えるし、席もソファー席であぐらをかいたとしても、余裕があるほどだった。

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コメダ珈琲は飯も豊富で、うまかった。それに変わっていった。カツサンドがあると思えば、「味噌カツサンド」まであった。グラタンには刻み海苔がかかっていた。中でも気に入ったのは、ビーフシチューだ。牛肉の油がにじみ出るほどギトギトに煮込まれた非常に濃いもので、スプーンを入れると、中にはポテトサラダが隠れていた。ビーフシチューにポテサラを忍ばせるとうまいなんてことよく考えたな、と感心しながらしばしば注文した。

他のコメダ珈琲にも行きたくなった。

インナーにヒートテックを着て、パタゴニアのダウンセーターを羽織るだけでは寒いくらいの気温だった。月極駐車場まで歩き、プジョー306に乗り込んで、サリーに電話をかけてみた。ワンダーフォンをシェイクした。
「はい、サリーです。お久しぶりですね。お望みは何でしょうか?」
「横浜店以外で居心地の良いコメダ珈琲の店舗を知りたいんだけれど」
「了解しました。少々お待ち下さい」
煙草を一口吸った。
「川崎と藤沢にありますが、藤沢の方がオススメです」
「オススメってどういう風に?」
「席数が多く、空間にゆとりがあります」
なるほど。サリーは中々優秀なのかもしれない。その後、彼女から道順を聞いた。三ツ沢から横浜新道に乗って南下し、戸塚から西へ向かうと。
サリーの音声読み上げみたいな声を聴きながら、行き先を大体把握すると、エンジンを書けた。「ピン」という音が鳴った。ガソリンメーターを見ると残り少ないことが分かった。
「なぁ、サリー。例えば、なんだけど、今車のガソリンがないんだ。これを満タンしたいと僕は思っている。この望みを今すぐ叶えることは出来るか?」
「む……」と今まで聞いたことのないサリーのこもった声が聴こえた。
「そういった類いのことは不可能です」
「そうか」
「申し訳ありません。けれど、そろそろこの電話の使い方のコツが分かるはずです。道順は以上です。それでは」
僕が何かを望んだにも関わらず(それが本当に望んでいるかは置いておき)、サリーにも出来ないことはあるようだった。

藤沢の遠藤というところにあるコメダ珈琲は本当に快適だった。慶応の藤沢キャンパスと文教大学が近くに位置しているためか、学生が少々うるさかったが、さほど気にならなかった。逆にちょっとしたザワザワとした感じが集中力を高め、僕はいつもより、二倍の速さでメールフォームを作りあげ、クライアントに連絡のメールをいつもより二倍丁寧に書いた。

サリーはなかなか使えるな。

いつも通りビーフシチューを注文し、食べ終わると、外へ出た。時刻は20時。僕はワンダーフォンを再びリュックから取り出し、右手に握って振った。サリーが出た。僕は試すように言ってみた。
「なぁ、サリー。セックスがしたいんだけど……」
「分かりました」と案外あさっリと彼女は了解した。
「どんなシチュエーションがお好みでしょうか?以前のようなものでよろしいでしょうか?」
……以前?僕が初めてワンダーフォンを手にした時、堀之内のソープでアヤコとやった時の話か。
「いや、何ていうんだろう。風俗は嫌だな。それに後腐れがないのがいい」
「少々お待ち下さい」
僕は車のキーを開けて、中に入った。
「ちょっと、条件が悪いのですが、それでもよかったら、22時に恵比寿の西口に行って下さい。それでは」
相変わらず、サリーは唐突に電話を切る。

<条件が悪い>という表現が気になったが、そのまま、第三京浜を経由して、恵比寿に向かった。高い料金を取られるのを覚悟してコインパーキングにプジョーを停めて、22時に恵比寿駅前に突っ立ていた。すぐにサリーの言っていた意味が分かった。顔は可愛いが、まるで力士みたいな身体をした若い女の子に声をかけられたのだ。
「タカシさんですよね?」

僕は彼女が行ってみたかったという小洒落た——こんなものは横浜にはない——ダイニングバーに入った。彼女はいきなり赤ワインを飲み始めた。僕はビールが飲みたかったが、車を運転しなくちゃいけないのでジンジャエールを飲んだ。腹が減っているという彼女のためにやたらハーブの草がのったチキンと、オリーブオイルかバターのようなものが降り掛かったテカテカ光るフレンチフライを頼んだ。彼女は大学生3年生で、都内の学校に通い、経済を勉強している。こういう経験をするのはすごく好きなことだ、とベラベラと喋った。僕は彼女の胴体をなるべく見ないようにして、顔だけを眺めた。童顔で目がまんまるでまつげが長くてかわいらしいな、と思ったが、胴体をみたら負けだ。相撲取りである。

どうでもいい気分になり始めて、結局僕は酒を飲んだ。

彼女が「行ってみたいバーがあるの」と言った。深夜0時から開店する「ちょーエロいバーなの」とのことだ。エロいバーってどういうことだ?と思いながら、ダイニングバーの勘定を僕が全額払ってから、行ってみた。カウンターに面する二人がけのソファーが、前方を除く三方を囲むようにで覆われていて、まるで馬車の椅子のようだった。確かにこれは二人きりになれる。彼女はなんだかよく分からない2,000円するカクテルを頼み、僕はソルティードッグを飲んだ。その時、ようやく思い出した。僕はセックスをしたいと望んでいたのであったと。
彼女ははしゃぐように言った。
「ねぇ、六本木にすごいホテルがあるの」
「そこに君は行きたいだね」
「そうよ、連れてってくれる」
僕は彼女の顔だけを見て言った。
「もちろん」

バーに8,000円払い、3,000円をタクシー代として払い、そのラブホテルに着いた。超ハードSMプレイが出来る、をコンセプトとしたたしかにすごいホテルだった。数少ない10室ほどの部屋にはそれぞれタイトルが付けられていて、置かれている(ハード)SM施設の内容が変わるとのことだった。幸運なのか分からないが、とにかく一室のみ空いていたので、僕はフロントのおばあちゃんに15,000円を払って、部屋に入った。

実寸大とも見間違うほどの木馬が置いてあった。木馬にはいかにも丈夫そう革で出来てた手かせがピンポイントで配置されていて、はめていけば恥ずかしい格好になるようになっていた。壁のいたるところに大きな鏡が貼り付けていて、上からはこれまた鎖で手かせが垂れ下がっていた。木馬以外にも、懺悔台や拘束マットまで用意されていた。もう、僕はうんざりしていた。

丸裸になって拘束マットに身体を預け、手かせを付けられ、マットごと回転させられ、前面の鏡にその醜態をされされた。アハハと笑う彼女を満足させた後に、牢屋をイメージしたプレイベッドの中に入った。「私、ゴムだめなの」という彼女に対し、生でやることを了承すると、僕はなんとかかんとか彼女の腹の上に射精した。かなり頑張った。なるべく彼女の顔を見るようにしたが、どうして、三段腹が目に止まり、その度に萎えた。

目が覚めた時には朝の8時だった。相撲取りは消えていた。僕は牢屋から出ると、周りを確認し、シャワーを浴び、散らばったものを片付けた。机に置いたワンダーフォンの下にメモが挟まっていた。

「あなたにはほんとに望んでいることがあるはず。さようなら」

二日酔いのせいもあって僕はますます混乱した。恵比寿まで日比谷線で戻ると、高額なコインパーキングの精算が待っていた。セックスをするのに、3万円払った。